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徳沢にある案内板
何気なくみどりさんが差し出した両手に乗り、
その手が胸元に引き寄せられ顔がぐっと近くなった。
「ところでコロンはこの上高地にいつ頃から住んでいるの?」
「・・・実はそう聞かれても記憶にないんだ。気がついたらここにいた。
ここから先の横尾から、さらに上に登った涸沢に僕たちコロボックルの
長老と姥が住んでいる。長老はここが白くなる季節を除き、
三つの季節ごとに必ず河童橋に下りてくる。
その時に一度だけ聞いてみたことはあるけれど、掟を重んじおしえてはくれない。
ここにいる僕の仲間もそうさ。皆いつ頃からここにいるのか知らない。
僕の場合は断片的に見たことのない風景や、みどりさんの匂い袋に惹かれたように
聴覚、視覚、嗅覚もまじえた絵柄が薄っすらと出てくることがある。
でもそれが何処なのか何なのかわからない。
そのぼやけた風景はこの地でないことはわかっているけれど、
それらを結びつけると何か物語を感じることもある。」
「その絵柄の中のひとつがこの匂い袋なのね・・・
いつからここにいるのかわからないってことは、
一年という四つの季節をいくつ過ごしてきたのか理解していないのね?」
「気がついた時から季節の繰り返しを数えてはいたけれど、わかっていることは・・・」
そう言いかけて空を見上げると思わず溜息が出てしまった。
「何?」
「・・・僕たちコロボックルは妖精とはいえ永遠ではない。
人間の寿命というものよりも、
早い段階でこの地を去っていかなければならないことを、
長老が姥と話しているのを聞いてしまったんだ。
みどりさんが言う時間に対しての秘密もね」
「時間に対しての秘密って?」
「長老が話していたあることと、みどりさんが語った 『時を刻むもの』 の結びつきに
気がついたことがひとつ。」
「何に気づいたの?」
「みどりさんから話を聞きながらも・・・うーん、ごめん
そのことは口が裂けても人間には伝えてはいけないことだと、自分なりに解釈した。
だからいくらみどりさんでもおしえられないんだ。」
「そう、わかった・・・会話の最後に一瞬あなたの顔つきが変わったあの時ね。」
「顔つきが!?・・・どうしてわかるの?」
「それが不思議なの・・・出会った時にも伝えたけれど、偶然ではないと思う。
初めてとは思えない何かを感じている。だからあなたが私の手や膝の上にいて、
表情が見えるといろんなことを感じてしまうの。左肩に乗っている時でも声のトーンで
あなたの優しさや切なさが伝わってくる。」
「ふ~ん、僕が周りに感じる気配と同じようなものかな?
ところでみどりさんはいつの間にか僕のことを
 『あなた』 と呼んでいることに気がついている?」
「そうね、自然に出ていたわ・・・ごめんなさい、いや?」
「ううん、とても心地よい響きだよ・・・なんて表現したらいいのかな?
ふわふわして体が心の底からあたたかくなる・・・そんな感じ。」
下山してきたクライマーが通るたびにみどりさんに目線を落としていく・・・  つづく

      蕗の葉下の住人 20年11月29日(土)
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